前回までのあらすじ
未来を変えるため50年後から来たという自分自身から勉強を学ぶことになった、岩倉中学3年サッカー部の拓海。学校帰りに大矢公園で教わることに。タイムリミットは7日間、爺さんと拓海の7日間勉強の3日目が始まる。
「今日は来るの遅いな爺さん」
前回爺さんに会ってから1週間が過ぎた。約束した日、学校帰りに遠回りをして岩倉図書館隣にある辻田公園までやってきた。
バスケゴールが設置してあるこの公園は岩倉のバスケキッズが集まるバスケスポット。バスケキッズたちの声を聞きながら拓海はベンチに腰を下ろした。
すると拓海はしばらくして違和感を覚えた。バスケキッズたちの声の中に聞き覚えのある声が。
「・・こっちにパスじゃ!」
「ジジイ何やってんだよ!人目につかないように辻田にしたんじゃねーのかよ!!」
爺さんはワリーワリーと手を合わせながらバスケを抜けてこちらにやってきた。
「まぁまぁそう怒るな。暇だったんで入れてもらったんじゃ。この公園じゃ飛び入り参加は普通の行為。ワシのことなど明日には誰も覚えておらんよ」
「飛び入りでバスケするジジイなんておらんわ!『飛び入りじじいと辻田でバスケなうw』ってツイッターに絶対書かれてるわ!」
「で、勉強調子はどうじゃ。体調が整って学校の授業が聞けるようになれば、もうお前の歯車は前に加速し始めるところのはずだが」
「それがな、聞いてくれよ爺さん。爺さん言うように本当に景色が変わってきたんだよ。この前は担任の則武に声かけられたんだよ。『最近勉強頑張ってるみたいだけどどうしたの?』って!」
爺さんの返事を待たず拓海は言葉を続ける。
「まず体調がいいわけ。飯食って朝練やって、気持ちよく授業がスタートするのよ。で、前の席で授業受けてるし授業も聞いているから授業内容がわかるわかる」
「あまりの俺の変わり様に職員室で話題になってるって。爺さんの言うとおりいろいろいい方向に動き始めてるわ!」
「そうか、まぁそれだけ今までがカスだったんだろうな」
「爺さん、それは言わないプロミスだぜ」
「冗談じゃよ。ワシのカスぶりはワシが一番良く知っておる。良くやれとる。順調で何よりじゃ。では3つめの教えを伝えようか」
習慣3 誘惑とは戦わない!
「今日伝える3つ目の内容は勉強法全体を100%とするとこの習慣の重要度は10%を占める。少ないと思って舐めるな。厳選しているから省くことはできん。心して聞け」
「3つ目の内容は『誘惑とは戦わない』。勉強に取り組む前にまずは環境を整えろということじゃ」
「爺さん、まだシャーペンは握らないんだな」
「まだ早い。テニス部に入部してもラケットはしばらく握らせてもらえないものじゃ。土台作りじゃな」
「すぐに役立ってお金になったり、すぐに役立ってゾクゾクするほど楽しかったりすればそんな必要は無いのじゃが、『勉強』というのは多くの子供にとって基本的にはツマラン」
「多くの誘惑と戦うには勉強というのは弱すぎるのじゃ。ドラクエで言うとスライムじゃ」
「誘惑に弱いスライムを長生きさせようと思ったら敵と戦わせないのが一番。スライムは相手が悪いと思ったらすぐ逃げるじゃろ。あれを真似するのじゃ」
「勉強が得意な奴らはな、勉強を妨げる誘惑に強いわけじゃないんじゃ。誘惑と戦わない作戦が上手いんじゃ」
「勉強を妨げる誘惑は強大じゃ。まともにぶつかれば即死。そうならぬように勉強を始める前に工夫を加えておこう」
「誘惑と戦わないためにする具体的な手段は3つ。伝えるぞ」
作戦1 勉強時と就寝時はスマホをリビングに!
「ここが最大の山場じゃ。スマホは薬にも毒にもなるが、誘惑に弱い勉強時には基本『猛毒』になる」
「当たり前のこと言うが、スマホってユーチューブ観れるじゃろ。あとゲームもできて、LINEで友達たちと自由に会話もできる。なんなら音声通話もいつでも」
「ネットの世界はあらゆる世界に繋がっておるから自分の趣味のページを見ることもできる」
「拓海の母さんが子供の頃はまだ携帯電話自体が世に無くて、勉強時の誘惑などほぼ無かったんじゃ」
「夜中に友達と会話をするなんて不可能じゃった。布団の中で好きな映像を見たり好きなゲームをしたりも不可能じゃ」
その母さんの時代に換算して考えてみるとどれだけスマホが猛毒かがわかるのじゃが、イメージしてほしいんじゃ。
「勉強机の上に、まず目の前にテレビが置いてあって好きなビデオが横に積んであるんじゃ。その横のテレビにはプレイステーションが繋がっていてゲームの電源が入ってる。その隣にはパソコンがあって、チャットでクラスメイトたちが楽し気に会話している」
「全て目の前にあって、全て指先一つでスイッチを入れることが出来る状況じゃ。なぁ拓海、これ勉強できるんか?」
「わざわざそんな環境にして勉強するとかクソバカじゃん」
「じゃろ?そう思うじゃろ。ならば今の拓海はクソバカだと思わんか。小さくなって1つになっただけでスマホが目の前に置いてある状況で勉強するっていうのはそういうことだ」
「俺は勉強時にスマホが目の前にあるなんて一言も言ってねーじゃん!・・その通りだけど!((+_+))」
「で、でもほら、調べものとかあるからスマホが無いと不便なんだよ。あと、無くしたプリントを友達からLINEで送ってもらったりするし・・」
「クソバカな奴がよくそんな言い訳を言うわ。いいか作戦を伝えるぞ」
「勉強時と就寝時はスマホはリビングで充電するのをルールにしろ。要は自分から離れたところに置いておけということじゃ」
「これは絶対じゃ。ごちゃごちゃ言い訳言って手元にスマホを置いて勉強している奴は勉強ができない奴じゃ」
「もしもそれでも勉強が得意な友達がいたとしても、その友達はスマホを手元から離したら100%もっと成績が良くなる」
「調べ物がしたい?家にある他の端末でやれ。もしくは、家族がいるど真ん中で調べて立ち去ること」
「友だちからLINEでプリント送ってもらった?家にある他の端末にデータを飛ばしてそっちで見ろ。もしくは、家族がいるど真ん中でそのプリントを勉強しろ」
「これぐらい勉強するところにはスマホを持っていってはいけない。家族に宣言してそのルールを死守しろ」
「ちなみに就寝時にリビングに置いておくのは生活リズムを保つためにじゃ。スマホのルールとして併せて伝えておく」
作戦2 勉強場所をテレビを消したリビングに!
「家の中で誘惑に強くて勉強に集中できる場所を作れ。誘惑に強いという面から言うと、リビングが最強じゃ」
「家族がいるから他事しづらいじゃろ。適度な雑音は集中を高める。リビングは勉強に向いておる。今や主流じゃ」
ベネッセ教育総合研究所が2015年に行った「小中学生の学びに関する実態調査」によると「学校の授業以外でよく勉強する場所は?」との質問に「自分の家のリビングルーム(家族で過ごす部屋)」と答えたのは小学生が84.3%、中学生が68.7%になりました。どちらもランキングでは1位となっています。
「ただ、テレビを消すのがマストじゃ。家族に協力を頼め。勉強の時間帯を決めてその時間は消してもらおう」
「うちの親父テレビ大好きだぜ?帰って来て焼酎飲みながら『笑ってコラえて』見るのが至福な時の人だけど大丈夫かな?」
「ひとまず頼め。母親を味方につけろ。録画してその至福の時をずらしてもらえないか聞け」
「ダメだったとしても拗ねるんじゃないぞ。今までのお前の勉強の取り組みを見ている家族からしたら、今のお前の真剣度はまだ伝わってないからな。その時は時間かけろ」
作戦3 家の外に集中できる勉強場所(サードデスク)を作れ!
「勉強を妨げる誘惑はとても強い。よって誘惑に負けない場所を多く作っておくとより良い」
「街にスポーツクラブってあるじゃろ、拓海。あれなんであるかわかるか?家で勝手に筋トレすればよくね?」
「んー勉強と一緒ってことか。誘惑に弱い運動を継続的にやれるようにあるってことかな」
「正解、さすが俺。大人だって誘惑に負けないように場所を変えるんだ。子供なんてなおさらだろう」
「例えばテスト前の週末、家族が出払って一人になってしまった家で勉強は急に出来なくなる」
「リビング学習は家族がいるからこそ。いないときには勉強が出来る環境を求めて家を出るといい」
「ベストは街の図書館。勉強したいガチな人の集まりの中でできる。公民館のような場所が開放されていたらそういった場所でもいい。もちろん一人で」
「あとはあまり勧めないがフードコートやカフェのような場所。今や中学生が1人でそう言った店に入ることが自然な世の中になった。本当に勉強場所難民になったらここも選択肢じゃ。無人の家の中よりマシじゃな。人の目があるからな」
「絶対イカンのは『友だちの家で勉強する』ってやつな。塾で教えててわかったけどな、勉強が得意な奴の口からはこのセリフ聞いたことがない」
「基本的に勉強が嫌いで遊びたいばかりの中学生が言うセリフじゃ。こんなことしてるのは拓海の言葉を借りるとクソバカじゃ。お前はやっとらんか?」
「ぇ、ばっバカ言うなよ。そっそんなことするわけないじゃないか。そんなやつクソバカだよな。わははは」
「目が泳ぎまくってバタフライしとるぞ(苦笑)わかりやすいやつめ。今後は誘われても断れよ」
「オス」
「具体的な作戦は以上3つじゃ」
「皮肉なものでな、勉強が得意な子ほど『人間がバカで誘惑に弱い』ということを理解しておる。だから得意な子たちは誘惑とは戦わないんじゃ」
「なにかを我慢するにも意志力(集中力)を消耗してしまうんじゃ。意志力は有限じゃ。勉強する前からその力を自分で削ぐことのないよう取り組め」
よどみなく流れるように話し続けた爺さんはしばらく口を閉じ、それからゆっくりと腰をあげた。
「じゃあワシはそろそろ行く。来週は長瀬公園にしよう。カネスエの近くのあそこな」
「あそこは良いぞ。なんせあそこもバスケゴールあるからな」
「バスケすな!」
1つ1つ良くなっていって自分の成長を感じ、拓海は悪くない気分だった。
近づく定期テストは遠くではためく黒い旗のように不安を感じさせるが、今回ばかりは楽しみの感情が少し勝つ。
一気に全部は無理だろうけど、言われた1つ1つをこなしていって未来を変えていきたい。
拓海はいつしか強くそう思うようになった。
トントン拍子で成功に近づくストーリーに見えてきたこの話、ここからしばらく右往左往することに。
つづく
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國立拓治
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