「ってことは、爺さんの教えを守れば俺の未来は変わるってことか?」
爺さんはニヤリと笑い、頷きながら言った。「もちろんじゃ」
部活終わりの下校途中、草陰から急に現れた謎の爺さんにフルネームを呼ばれて呼び止められた。
呆気にとられているところにさらに「お前の未来を変えないか?」という唐突な爺さんの申し出。
なんでも、爺さんは50年後から来た俺自身だとか言う。「そんなドラえもんのようなことあるか?」と笑ってみたが、爺さんはかぶせるようにさらに大きな声で笑いながら言った。
「お前は10年前に日本中の人が電車内でスマホを見て過ごしてることを予想できたか?」
「そんなお前が50年後の人類のテクノロジーの進歩を予想できるというのか?」
「人類の進歩を舐めるな!今から50年後の世界では時空を超えるタイムトラベルはハワイ旅行ぐらいの手軽さじゃ!」
もっともらしいことを言う爺さんのその姿は、髪はボサボサで汚いスウェットの上下。とても遠い未来からやってきたように見えない。
謎の爺さんが大声で「未来から来た」なんてわめいて近づいてきたら、迷わず逃げるのが得策だろう。
爺さんから逃げようと歩き出したが、去ろうとする俺の後姿に向かってわめく爺さんの言うことは、ことごとく今の俺自身のことを言い当てていた。
「名前は拓海!岩倉中学2年のサッカー部!サッカーとスマホゲームに夢中で勉強はサッパリ!夜更かしを繰り返し学校の授業は日々居眠り!」
「通っていた塾は成果が出てないと先日親に辞めさせられたばかり!・・・違うか?」
爺さんは語気を強めてさらに言葉を続ける。
「やらなきゃと思いながらも頑張れない自分にイライラしている!どこからどう頑張っていいかわからなくて密かに困っている!」
「こんな自分で将来大丈夫だろうかと不安で焦っている!ゲームをしたりしてその気持ちに気が付かないふりをしていつも逃げている!違うか?」
ここまで言い当てられたら素通りはできない。謎の爺さんの言う言葉に耳を傾けざる得ない。そしてこの酷い状況をなんとかしたいという想いを持っていたのは間違いない。
とは言えあまりに不気味だし半信半疑な気持ちは消えないまま。爺さんはそんな不審がる俺を見透かすように、心を撃ち抜く決めセリフをぶつけてきた。
「今お前が見ているワシが50年後のお前の姿じゃ!お前の今のだらけた生活が続くとこうなるということじゃ!」
「それでいいのか!?今のままだと確定でこのザマだぞ!!」
爺さんの言葉により、拓海の不快感は胸から喉元まで広がり、喉は無性に渇いた。
「昔から大人はな(昔の自分に会ったらもっと〇〇しろって言ってやりたい)なんてみんな言ってたんじゃ」
「ただの夢物語だったこの言葉が、50年後の世界では科学技術の進歩によりタイムトラベルで実現するようになった」
「(過去の自分を変える活動)なんて言って、(カコカツ)なんて略されて一時期流行ったぐらいじゃ」
「3年バイトしたお金を貯めてようやくワシもカコカツで50年前にやってこれた。これだけの大金を突っ込んだのは貧しい生活に別れを告げるためじゃ!過去のお前を指導して!」
「未来をひらくんじゃ!」
冒頭の台詞はこの爺さんの台詞の後に繋がる。
このままノホホンと生きていくと、俺の未来はどうやらしんどい生活を過ごすことになるらしい。
それはどうも俺の今のだらしない生活とだらしない学習の取り組みが原因らしい。
50年後の俺がそんな俺を正すためにやってきたらしい。漫画のような展開だがどうもそうらしい。
今すぐこの場を立ち去りたいが、将来のみすぼらしい自分の姿を目の当たりにすると、足が動かなかった。仕方が無い、もう少し話を聞いてみようか。
「爺さんわかったよ。話が急すぎていろいろ不安でしかないけど、ひとまず詳しく話を聞かせてくれよ」
安堵する爺さんと日暮れの近所の公園へ向かう。覚悟を決めると不思議と足取りは軽い。
拓海は自分がどこか楽しみな気持ちを持って歩いていることに気がついた。
話を聞くと決めた拓海のこの日の小さな決断。
これが今後の人生の最大の分かれ道となり、輝く未来をひらく第一歩であったということはその時の拓海が知る由もなかった。
つづく
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國立拓治
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